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護符◆1
※異類婚譚(×人外)風ですので苦手な方はご注意下さい
※作中に「合意はあるが愛はない」行為が登場しますので苦手な方はご注意下さい
女を目覚めさせたのは、体が溶け出すような快感だった。
ああ、と声を上げた、その自分の声で女はぱちんと目を開けた。
そして息をのんだ。
自分のスカートの中でうごめくものがいた。それは、先程の快感をもたらした何かだった。ざらりとした感触が、繰り返し女の体の肌を行き来する。
舐められている。
急に動いたり大きな声を上げたら、噛み付かれるかもしれない。
このまま『何か』がいなくなるまで動かないほうがいいのか。
女は声を抑えようと、自分の口を片手で押さえた。
そこは森の中、食べられる果実を探している途中でみつけた空き地だった。あまりにも気持ちよい風が吹いていたので、少し休んでいこうと籠を横に置いて目を閉じてから、どれほどの時が過ぎたのだろう。この『何か』は、果実の匂いに惹かれてやってきて、暗くて暖かい場所をみつけてもぐりこもうとしているのか。
獣の匂いがしていた。ちくちくするような、むずかゆいような毛皮の触れる感触もあった。
「あ」
女の声がもれた。ぴくり、と『何か』が身じろぎをし、舌の動きが止まった。女は自分の濡れた場所に、『何か』の生暖かい息がかかるのを感じた。
舌がふたたび、ゆっくりと潤いの源に触れた。
「はっ」
悲鳴のような吐息が、強く抑えた口からもれた。
くくくっと、くぐもった笑い声がした。
「そんなによかったか」
「あっ、あんた誰っ? 何っ?」
女が半身を起こしながら叫んだ。野性の獣に襲われていると思ったから、動かずに我慢していたのだ。言葉が話せるなら、誰か――何かは知らないが、理由くらいは聞かせてほしい。
女のスカートの中から、毛皮の背中が現れた。ぶん、と身震いした後で頭が出てきた。大きな口を笑うように開いた狼だった。
「お前は化け物? それとも呪いのかかったただの人? あたしに妙なことしたら悪魔の呪いがかかるよっ!」
ほらっ、と女は胸元から、最近村にきた物売りから買った護符を取り出して突きつけた。本当は長寿の呪いだがこの際細かいことを気にする余裕はない。
「ふん、そんないんちき護符にいくら払ったんだ。呪力も何もないぞ」
「……高かったのにっ!」
狼が目をすがめて、女が手に持つ護符に鼻先を近づけた。
「一応長寿祈願とは書いてあるが、おおかた元の護符を真似して作った偽物だろう……お前、長生きしたいのか?」
「そうよ、百歳まで生きるのよっ! ここであんたに殺されたりするわけにはいかないんだっ!」
「殺す? そんなことはしない。俺はお前と契ろうと思ってきたのだ」
女が座ったままであとずさった。狼は動かない。
「だってあんた狼でしょう?」
「狼は嫌か?」
「当たり前でしょ、あたしは人だもの」
そう言った途端、女は花になっていた。
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