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呪いがいっぱい 1
間奏曲

呪いがいっぱい◆2

「まず、腕で相手を抱きしめるの。それから口と口を合わせて。気持ちよくない? まだそんな感じしないか。少し口を開けて、そう。いい? 今から舌を入れるけど、噛まないでよ。あんたも舌であたしの舌を舐めて」
 娘がそう説明をして男の口に舌を差し入れると、男がびくりと震えた。
「気持ちいい? 人の体を流れる水を、お互いに混ぜ合わせるの。もっと他のやり方も教えてあげる」
 娘はさっき着直したばかりのシャツを脱いだ。この時代ここにはまだシャツの下につけるものはない。手でつむいだ糸を一本一本枠に張って織り上げて作る布は安くはないのだ。
「ここ、触って」
 娘が男の手をふくらみのひとつに導いた。
「やさしく握って、ここを指や唇や舌でいじるの。そう。硬くなるでしょう。あたしが気持ちいいってことよ。あっ…・・・はあっ……そうよ」
 娘は男の手をスカートの下へ導いた。
「ここが濡れてるでしょう。気持ちがいいとそうなるの。水を混ぜ合わせる準備なの。あんたも脱いで」
 娘はすとんとスカートを落とすと、男が身に着けていた、どこといってかわりばえのしないシャツを脱がせた。
「あんたのここも気持ちよくしてあげる」
 そう言って娘は男の胸板に手を伸ばし、自分のものよりも小さい先端を指でしごいた。男の背中がそりかえった。さっき男が濡らした下ばきのふくらみに、娘が微笑んだ。
「濡れたままで気持ち悪かったでしょ」
 そう言って手を添えて、男の下ばきを脱がせた。ぷるんと震えて飛び出したものに、娘が優しく手を添えた。
「これをここに差すのよ」
 娘は男の手を自分の濡れた場所に導いて、どこを目指せばいいかを教えた。
「あたしの中の水に、あんたの水を混ぜて」
 男は先程の自慰が、この行為の貧しい代用品だったことを知った。弾力のある濡れた場所が、硬くなった男の一部を迎え入れた。自分の手よりもずっとしっくりくるものに根本まで全部を包まれ、男は溜息をついた。後頭部がとろけるような刺激が消えないよう、男は動きを止めた。

 娘が、器用にくいと腰を振った。
 男の背骨のつけ根から、足の方に痺れるような快感が抜けた。

「ゆっくりでいいから動いて。中を味わって。あんたのすごく硬くなってる。元がクルミの木だけあるわね。ねえ、ノア(くるみ)。あたしあんたのこと好きよ」
 男の背中を、さっきとは違う快感が走った。

「名前は?」
 商売で抱かれるときは、娘に名前はない。でももちろん娘にも、ちゃんと名前はあった。
「ヴィ」
「ヴィ(命)、いい名前です」
「ノア。ねえ、もっと動いて」
 ヴィはノアの、若木のような背中に手を滑らせた。ノアは言われたのとは逆に動きを止めてヴィの顔を覗き込んだ。
「ヴィ、よくないのですか?」
「ノア?」
「さっきはもっと、声をあげていました」
 ヴィはきょとんとした顔をして、それから破顔一笑した。
「あれは本当じゃないの。声をあげた方がお客が喜ぶから、サービスよ。あんたも喜んだでしょ」
 戸越しにヴィの声をききながらノアがした行為のことを、ヴィは口にした。
「本当はただ感じているほうが好き。ねえ、ノア。中であんたを感じさせて。あんたの水が欲しいの。奥まで突いて」
 ヴィの言葉の意味がノアに正しく伝わっていたかどうかは分からない。が、ヴィのひくひくと震える粘膜が、もっと奥へとノアを誘っていた。
 ベッドの足を伝って振動が小屋中に響いた。ヴィは目をぎゅっとつぶって快感を逃がさず体の奥に貯め、ノアは痺れる快感で狂ったように腰をうちつけていた。
 体の奥に注がれた水に、ヴィがたまらず吐息をもらした。ノアは止まらなかった。何度も、何度もヴィの体の奥に精を注いだ。ヴィの体はぴくぴくと痙攣した。

「天国に行ったみたいだった」
 ようやく口をきけるようになったヴィが、すぐ横のノアに微笑んで言った。ノアは目じりに涙をにじませていた。
「ヴィ。知りませんでした……こんな」
「おいしいクルミのお礼よ。あんたの匂い、好きだわ。あんた森の匂いがする」
 ヴィがノアの肩に自分の頭を乗せた。

「えーっ、本当にタダでやらせてるの?」
「もったいないっ!」
 久しぶりに町へ出たヴィは、自分とノアのことが噂になっていると知った。それは森の奥の小屋に住む娼婦が、情夫を囲ったというものだった。おかげでいつ行っても小屋の中からはベッドのきしむ音が響いていて、小銭を握り締めたまま肩を落として森から出てくる男達の姿がひきもきらないと。
「それじゃ、仕事にならないでしょ」
「噂が大げさなのよ。仕事だってちゃんとしてるわ」
「合間に、でしょ」
 娼婦仲間の言葉はかなり真実に近かったので、ヴィは黙って肩をすくめてみせた。

 そんな噂を今更気にするヴィではなかったが、帰った小屋の中で傷ついたノアの姿を見つけて顔色を変えた。
「ノア、ノア、どうしたの。何があったの?」
「分かりません。頭から布をかぶせられて殴られました」
「ひどい」

 ノアの体はあちこち腫れあがっていた。熱を出したノアは意識を失って寝込んだ。ヴィが確かめた限りでは骨が折れている場所はないようだ。でも体の中までは分からない。いつだか馬車にはねられた娼婦仲間は、3日経ってから突然血を吐いて死んだ。

 やっぱり駄目だ。ノアと二人で幸せに暮らすなんて、自分には大それた望みだったのだ。ノアは一人では何もできないから、ノア一人で町へやって暮らしていけるとも思えない。
 やっぱりクルミの木は、クルミの木でしかないのだ。

 ヴィはノアの熱で割れた唇にキスをして、大きな布に身をつつんだ。小屋を出て訪れたのは魔法使いの家だった。
「やっ、ややっ、お前か。娼婦がこんなところに何の用だ。……ここへ来られては困る」
 魔法使いはちらりと奥を振り返り、最後の言葉だけはささやくように言った。
「魔法使いのお方、姿を変える呪いを解く方法を教えて頂けませんでしょうか。お礼がこれで足りるかどうか分かりませんが」
 奥に聞こえるようにはきはきとそう言って、ヴィは両手で大事に包んできた革袋の口を開き、中の金貨を見せた。魔法使いたちは血を吐くような修行をして力を得るのだ。その知識を借りるには対価が必要だった。もっともお得意様でもあるこの魔法使いなら、少しくらい対価が足りなくても何とかしてくれるのではないかという考えもあってヴィはここへ来ていた。
「およそ呪いというものは目に見えない蜘蛛の巣をかぶったようなもので、動物の姿に変えられても、その本質は人のまま変わることはないのだ。蜘蛛の糸越しに中を覗くことができる私のような魔法使いにとって、変容とはただの目くらましにすぎない」
 ああ、ではやはりノアの本質は木のまま変わることはないのだ、ヴィは悲しく考えた。
「変容したままで、命を落としてしまったらどうなるのです?」
「その時、呪いは解けるだろう」
 もしノアが死んでしまったら、ベッドの上のクルミの木に取りすがって泣けばいいのか。ヴィはノアと自分のそんな姿を想像してみた。泣けばいいのか笑えばいいのか分からなかった。

「もちろん魔法使いの力によって、その蜘蛛の糸の強さは異なる。強い力を持つ魔法使いならば、弱い糸を外すことは可能だ」
 魔法使いの言葉に、ヴィははじかれたように顔を上げた。
「どこの誰がかけた魔法だ?」
「誰かは分かりません。森の中のクルミの木がなくなったのを、魔法使いのお方はご存知でしょうか」
 しとやかな口調とは裏腹に、あんたがいつもあの道を辿って来てるのは知ってるのよ、とヴィの目が告げていた。
「なにっ、あのクルミの木とな……残念だが、この私ではとてもとても」
 ヴィに股間をむんずと握られ、魔法使いがうっと前かがみになった。
「しかし、できるだけのことはしよう。……乱暴な娘だ」
「こういうのが好きなくせに」
 お互いにしか聞こえない内輪のささやきを交わすと、魔法使いと娼婦の娘は、専門職とその顧客の立場をそれぞれに入れ替えた。
「呪いの蜘蛛の巣を破ることはできないが、代わりにかぶることができる呪いだ。蜘蛛の巣の中に新しい誰かがもぐりこめば、中にいた誰かは押し出されて出る」
「それをお願いします。魔法使いのお方」

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