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053◆護符・1(直接ジャンプ  )
(いつか・どこか・西洋風ファンタジー/原稿用紙19枚)
【R18】(18歳未満の方は閲覧をお控え下さい。)→ガイドライン
異類婚譚(×人外)風ですので苦手な方はご注意下さい
※作中に「合意はあるが愛はない」行為が登場しますので苦手な方はご注意下さい
 
1.
 
 女を目覚めさせたのは、体が溶け出すような快感だった。
 ああ、と声を上げた、その自分の声で女はぱちんと目を開けた。
 そして息をのんだ。
 
 自分のスカートの中でうごめくものがいた。それは、先程の快感をもたらした何かだった。ざらりとした感触が、繰り返し女の体の肌を行き来する。
 舐められている。
 
 急に動いたり大きな声を上げたら、噛み付かれるかもしれない。
 このまま『何か』がいなくなるまで動かないほうがいいのか。
 
 女は声を抑えようと、自分の口を片手で押さえた。
 そこは森の中、食べられる果実を探している途中でみつけた空き地だった。あまりにも気持ちよい風が吹いていたので、少し休んでいこうと籠を横に置いて目を閉じてから、どれほどの時が過ぎたのだろう。この『何か』は、果実の匂いに惹かれてやってきて、暗くて暖かい場所をみつけてもぐりこもうとしているのか。
 
 獣の匂いがしていた。ちくちくするような、むずかゆいような毛皮の触れる感触もあった。
「あ」
 女の声がもれた。ぴくり、と『何か』が身じろぎをし、舌の動きが止まった。女は自分の濡れた場所に、『何か』の生暖かい息がかかるのを感じた。
 舌がふたたび、ゆっくりと潤いの源に触れた。
「はっ」
 悲鳴のような吐息が、強く抑えた口からもれた。
 くくくっと、くぐもった笑い声がした。
「そんなによかったか」
「あっ、あんた誰っ? 何っ?」
 女が半身を起こしながら叫んだ。野性の獣に襲われていると思ったから、動かずに我慢していたのだ。言葉が話せるなら、誰か――何かは知らないが、理由くらいは聞かせて欲しい。
 
 女のスカートの中から、毛皮の背中が現れた。ぶん、と身震いした後で頭が出てきた。大きな口を笑うように開いた狼だった。
「お前は化け物? それとも呪いのかかったただの人? あたしに妙なことしたら悪魔の呪いがかかるよっ!」
 ほらっ、と女は胸元から、最近村にきた物売りから買った護符を取り出して突きつけた。本当は長寿の呪いだがこの際細かいことを気にする余裕はない。
「ふん、そんないんちき護符にいくら払ったんだ。呪力も何もないぞ」
「……高かったのにっ!」
 狼が目をすがめて、女が手に持つ護符に鼻先を近づけた。
「一応長寿祈願とは書いてあるが、おおかた元の護符を真似して作った偽物だろう……お前、長生きしたいのか?」
「そうよ、百歳まで生きるのよっ! ここであんたに殺されたりするわけにはいかないんだっ!」
「殺す? そんなことはしない。俺はお前と契ろうと思ってきたのだ」
 
 女が座ったままであとずさった。狼は動かない。
「だってあんた狼でしょう?」
「狼は嫌か?」
「当たり前でしょ、あたしは人だもの」
 
 そう言った途端、女は花になっていた。
 
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