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SS#011(single stories)
※以前別サイトで発表した話の改稿です。
ブログ記事で先日お知らせした、sleepdog様主催の「希望の超短編」企画に投稿した作品です。
 
■アタランテ
 
「名前くらい聞けばよかった」
 
 去っていく彼女の背中を見つめて、一人でつぶやいた。
 俺って情けない奴。
 
 公園のランニングコースで会った彼女のこと、アタランテって呼んでたんだ。
 ギリシャ神話に出てくるアタランテはすごく足が速くて、自分に勝った人と結婚するって言って男と競争したけど誰も追いつけなかった。でも神様なんかじゃなくてちゃんと人間なんだ。
 
 二つ上だって言ってたけど、俺だって結構速いんだぜ。一年なのに、今度の大会で選手に選ばれてたんだ。引越しするんで出られなくなっちゃったけど。本気で走って女子に負けるなんて思わなかった。
 
 本当は俺、今日は絶対に彼女に勝つつもりだったんだ。それで、名前とメルアド教えてもらおうと思ったんだ。せめてメル友になってくれって言うつもりだったんだ。
 
 くりっとした目、ぴょんぴょん跳ねる髪の毛。すごく綺麗な走り方。あんな女子がいるなんて知らなかった。もう二度と会えないかもしれないって思ったから、絶対に勝とうと思ったのに。まさか負けるなんて。
 
「……まあいっか」
 
 アタランテの話を読んだとき、黄金の林檎なんかにひっかかってアタランテが競争に負けてしまったのがすごく悔しかった。本当はアタランテの方が絶対速かったのにってずっと思ってた。
 
 やっぱりアタランテは速いや。俺と今度また競争するまで、誰にも負けないで。黄金の林檎なんか拾わないで。次は絶対勝つからさ。
 
end.(2011/03/27)
 
参照:アタランテ」フリー百科事典 ウィキペディア日本語版 http://ja.wikipedia.org

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